虹色の光
花飾りのためのデコール
テキスト
ハッピーエンド
誰ひとり、泣いたり悲しんだりしていない みんなが笑っている幸せな結末
蛍の母――こうして、人々は幸せに暮らしましたとさ
蛍の母めでたしめでたし
ほたる……!
ほたるもういっかい! もういっかい読んで!
蛍の母また〜? ふふ、蛍は本当にこの絵本好きだね
ほたるうん! だって、みんな幸せだもん!
蛍の母そうだ。今度ね、この絵本を元にした コンサートがあるんだけど、観に行ってみようか
ほたる! うん!
小さな頃から、人の笑った顔が大好きでした
蛍の母コンサート、どうだった?
ほたるたのしかった! お歌も、ピアノもすごかった! みんな、みんな笑ってた……!
蛍の母ふふ、そっか
ほたる……やりたい
蛍の母?
ほたるわたしも……お歌とピアノ、やってみたい!
それはきっと、音楽の魔法
ほたる……ら〜らら〜……♪
ほたる……お、おわりです
蛍の母すごーい蛍! ピアノ、上手に弾けるようになったね! 歌もとっても素敵だった!
ほたる!
聴いた人が、笑ってくれて
蛍の母お母さんもっと聴きたいな〜。 リクエスト、お願いしてもいい?
ほたるうん! えへへっ
わたしの心も、あたたかくなって
幸せな気持ちで音楽をすると
ほたるらん、らん……♪
ほたる(あれ……? なんだか目の前が)
ほたる(きらきらしてる)
ほたる(わぁっ、すごい……! きれい!)
世界が、虹色に輝いて見えました
ほたるコンクール?
蛍の母そう。出てみたらって、先生が勧めてくれて
ピアノ講師蛍ちゃん、あなたは普通の子よりすごくすごく上手なんだよ
ピアノ講師コンクールは発表会とも違うから、 最初は戸惑うこともあるかもだけど…… 蛍ちゃんはもっとたくさんの人に知られるべきだと思う
蛍の母蛍、どう?
ほたるやってみたい!
ほたる上手に弾けたら、みんな笑ってくれるんでしょ?
それは、わたしの幸せでもあって
アナウンス続きまして、小学校中学年の部。 金賞……汐見蛍さん
ほたる!
蛍の母すごい、すごいよ蛍! 金賞だって!
ほたる金賞……
蛍の母みんなが蛍の演奏を聴いて、感動したってこと!
ほたる……! やったあ!
この虹色はきっと、誰かを幸せにできた証
とてもいい演奏ができた時に、感じる光
まるで神様が褒めてくれているみたいで、 素晴らしいものなんだと思っていました
――けれど
少女Aなんでいつも蛍ちゃんばっかり金賞なの!? 私だってがんばってるのに!!
ほたる……え
少女B先生たち言ってたよ。 蛍ちゃんはレベルが違うって。天才だって
少女Bだったらもっとおっきな教室行ってよ。 蛍ちゃんがいるとピアノ、楽しくない!
ほたる……っ!
少女Cそーそー。辞めた子みんな言ってたよ。 蛍ちゃんがいるからだって!
少女C蛍ちゃん、もしかして知らなかったの? やばー
ほたる…………
わたしの音楽は、虹色の光は
誰かを傷つける、悪いものだったみたいで
審査員A……『楽壇の天使』、残念ですなぁ。 かつては金賞常連だったのに、今やこんな下位に
審査員B神童が成長するうちに『ただの人』になってしまうのは よくあることじゃないですか
——でも、音楽を辞めることもできなくて
だから
見ないように、見ないように。 そんなふうにピアノを続けて
蛍の母ねえ蛍。本当にもうコンクール出ないの?
ほたるあ、うん……普通に弾くだけでも、楽しいから
蛍の母そう? 蛍がいいならいいんだけど…… お母さんも、蛍のピアノ聴けるだけで嬉しいし
ほたる…………
蛍の母あ、そうそう。都芸の資料もらってきたわよ。 中学校も音楽科があるみたい
蛍の母コースも色々あるけど……まあ、蛍はピアノコースか。 ちっちゃい頃から大好きだもんね、ピアノ
ほたる……うん、そうだね
その言葉も、嘘じゃなかったけれど
音楽との向き合い方が、わからなくなっていって
始業式
都立芸術学院 中学校2-A
クラスメイトAこんにちは、汐見さん!
蛍! こ、こんにちは!
クラスメイトA隣の席になったの初めてだね。 1年の時、あんま話す機会なかったから、うれしいな
クラスメイトAそれでね、この後クラスみんなで親睦会やるんだけど、 汐見さんも来ない?
蛍え……いいんですか?
クラスメイトAもちろん! 先生が特別にね、音楽室貸してくれるって! それで自己紹介代わりに、みんなで軽く合奏したりとか――
蛍!
蛍あ……ご、ごめんなさい! わたし今日、用事があったのを忘れてまして……!
蛍えっと、その……失礼しますっ!
クラスメイトAあっ、汐見さん
また、虹色を見てしまったら
それで誰かを、傷つけてしまったら
そう思うと、不安で、怖くて
蛍はあっ、はあっ……っ!
蛍はあ……はあ……
本気で音楽をやっているみんなと比べて、 逃げているだけの自分が、申し訳なくて
いつしかわたしは、コンクールだけじゃなく、 他人とも距離を取るようになっていました
蛍…………
蛍行きたかったな
蛍……?
蛍(なんだろう……人が集まってる)
蛍(ピアノの音……と、歌?)
蛍(そっか……確かここ、ストリートピアノが――)
???おいおいおい〜!
???揃いも揃ってぼーっと突っ立っちゃってさぁ。 頼むぜ、オーディエンスたち!
???なんのために手と足が付いてんだ? なんのために心臓があるんだ?
???——ハートビートするためだろ!
蛍(な、何あの人……!?)
蛍(聴いてる人たちをすごく、煽ってる……?)
???いい音楽聴いたら手ェ上げる! わたしと一緒に遊ぼうぜ!
蛍(! なんだかすごい人……)
蛍(というかストリートピアノって、 そういうふうに弾くものだっけ……?)
???――♪
蛍(……でも、なんだろう)
蛍(あの人の音楽……聴いてると、だんだん……)
???はいさっさと手ェあげる! もしくはクラップユアハンズ! こっちは手が塞がってるんだから、みんな頼むよ〜!
女子高生Aあはは、何それ無茶苦茶じゃん!
女子高生Bやってみる? なんか面白そうだし!
蛍……!
子どもおかあさん、わたしもやりたーい!
子どもの母親そうね。じゃあ、真似してみようか!
蛍(みんな、リクエストに応え出した……!)
???いいねいいねェ! みんなサイコーだぜッ!
蛍(あの人も……聴いてる人も、笑ってる……!)
???……んん? おいっ! そこのポカーンとした顔してるやつ!
蛍……?
???お前だよお・ま・え! なんかしょぼくれた子犬みてーな雰囲気してるお前!
蛍え……わ、わたし!? ですか!?
???わたしはな、わたしの演奏で つまんなさそうにしてるやつ見るのがすっげぇヤなんだよ!
???わたしはデリケートなんだ!
蛍ご、ごめんなさい!?
???こっち来いこっち! わたしの隣座れ!
蛍え……でも、隣って……
???いいから! ほら座る!
蛍は、はい……
???手ェ出す! 鍵盤に置く! そんでもって――
???好きに弾け!
蛍えええっ!?
蛍むっ、無理ですよそんなの……! あなたが弾いてる曲、わたし知らないですし……!
???ほーん……『弾けない』じゃなくて?
蛍あ……
???やっぱな! なんか弾ける奴の匂いがすると思った。 そうとわかれば、弾いた弾いたっ!
蛍でも……わたしの演奏は全然……
???はーーー? 何言ってんだお前?
???音楽なんて、どんなふうにやってもいいに決まってんだろ
蛍!
???ほら、わたしが弾いたフレーズ真似してみろ! そしたらわたしがその上で暴れてやる!
蛍うう……
蛍(何を言っても見逃してくれなさそう……)
蛍(真似するだけなら、大丈夫……かな……?)
子どもがんばれお姉ちゃん!
女子高生Aリラックスリラックス〜
???よしっ、それじゃいくぞ!
蛍は。はいっ!
蛍……!
蛍(いつぶりだろう)
蛍(こんなふうに、ピアノと向き合ったのは)
???お……おお!? なんだお前、実は結構弾けるな!?
???へへっ、やるじゃんか!
女子高生Aわ〜〜っ! あの子すっごい上手!!
子どもたのしい〜〜! もっとやってもっと! あははっ!
蛍(聴いてる人の、笑った顔を見るのは)
???よし、お前もメロディ弾いちまえ! 特別だからな!
蛍(……あれ)
蛍(鍵盤触るの、怖くない――)
蛍はぁ……はぁ……
???ったくよー。結局最後までそんな顔でピアノ弾きやがって
蛍え……?
???気づいてねーの? ずっと腹痛そうな顔してるぞ、お前
蛍あ……お腹は大丈夫、です
???わたしはな、 わたしの音楽聴いたやつ全員に、幸せになってほしいんだ
蛍……!
???何抱え込んでんのか知んねーけどよ
???お前だけだぞ〜? そんな顔なの
???ほら、見てみ
女子高生A楽しかった! 二人ともありがとー!
女子高生Bもう一曲おねがーい!
子どもねーおかあさん! わたしもピアノ弾きたーい!
???へへ、どーもどーも! 今日はきっといい夢見れるぜ!
蛍(……みんな、笑ってる)
蛍(……わたしの知ってる音楽と 全然違うものなのに……!)
蛍……すごい
蛍(わたしも……こんな音楽がやりたい)
蛍(この人みたいに……みんなを幸せにできるような)
蛍(誰かのための、音楽を……!)
蛍……ぐすっ
???え、は!? ちょっ、何泣いてんの!?
蛍え……あれ……?
???おいおい待て待て! わたしが泣かしたみてーじゃん! な、なんか弾いてやろうか?
???にこぱんちゃんって知ってるか? 子ヤギのアニメ。あれのOP弾いてやるよ!
???にこぱんちゃん、いいよな! けっこー口悪くてさ、『踊るっきゃねえな』って——
蛍……ふふっ
???! お、笑った!
蛍ごめんなさい……ちょっと、びっくりしただけです
蛍……あの。あなたのお名前、なんていうんですか
奏多え、わたし? 奏多。沢海奏多
――中学2年生の春
重苦しかったわたしの世界に
蛍……奏多さん
蛍わたしに、音楽を教えてくれませんか?
まばゆい光が、差し込んだのです