凡人と天才
花飾りのためのデコール
テキスト
ライブ1週間前
ガレージ
まほろ――♪
凪……まほろ。そろそろ時間
まほろ――♪
凪まほろ……まほろってば
まほろひゃっ!? 何? どしたの凪ちゃん!?
凪……時間。もう遅いよ
まほろあ……ほんとだ。 でも、あともうちょっとだけ……!
凪ダメ。ここんところ毎日居残り練習してるじゃん。 喉壊したらどうするつもり?
凪ほら、カバン持つから。出るよ
まほろええ〜……せっかく歌詞もなんとかなって、 歌に集中できるようになったのに〜
凪だからこそ、体は大事にして
凪……あれ? このにこぱんキーホルダー…… 汐見さんが見つけてくれたやつじゃん
まほろあ、うん。奏多の家に届けに行ったんだけど、 持っててもらって構わないって
まほろせっかくだし、お守りにしてるんだ。 奏多が見守ってくれてる気がして
凪……そうなんだ
まほろだから〜……お願い! もうちょっと! もうちょっとだけ!
凪……はぁ
凪ねえ、まほろ。 なんでそこまでしてがんばるの?
凪汐見さんが入ってきて、 負担も減らそうと思えば減らせたはずだよ?
凪解散の話だってなくなった。 私たち、それでよかったはずじゃん
凪なんでそんなに、自分を追い込むようなことするの?
まほろ…………
まほろやだな〜、追い込むなんて大げさだよ! ただ私が、カッコ悪いところ見せたくないだけ!
凪…………
凪(そうやって、笑って誤魔化す)
凪(昔からの悪い癖)
凪(そのバレバレな演技で、隠し通せると思ってる)
まほろ凪ちゃんの言う通り、バンドは解散せずに済んだ。 でも、そこで満足したらダメだな〜って
凪(なーんで……そうなるかな)
凪(奏多がいた頃は、そんな感じじゃなかったじゃん)
凪(バンドはあくまで、青春の思い出づくりで)
凪(だからみんなも、いい感じで笑えてたのに)
凪(私は、それがよかったのに)
凪……プロ目指してはないんでしょ?
まほろう、うん
凪じゃあ――
凪(なんでそんなに、前に進もうとしてるの? 上を目指そうとしてるの?)
凪(……変わろうとしてるの?)
凪(このまま、ここにいるんじゃダメなの? ただ好きで音楽やるだけのバンドで……)
凪(なにかになろうとなんて、しないで——)
凪(置いてか、ないでよ)
凪……っ
まほろ……? 凪ちゃん?
凪(なんて、積もった全部を言える勇気も)
凪(臆病な私を、見せる勇気もない)
凪ごめん、なんでもない
凪でも、無理だけはしないで。約束
まほろ……うん、わかった! 約束ね!
凪(私もまた、笑って誤魔化すしかできない)
凪……あは
凪(ほんと、嫌になる)
数日後
ガレージ
蛍こんにちは……って、あれ
蛍(まだ誰も来てないみたい。 みなさんまだ学校かな)
蛍(どうしよう……先に練習してようかな)
蛍(初ライブも、近づいてきてるし)
蛍…………
朋花蛍さんも、ボーカルをやればいいんです
蛍(millsageの音楽は、奏多さんのボーカルと ピアノで成り立ってた)
蛍(だから……まほろさんは奏多さんの 代わりになろうとがんばってる)
蛍(でも、奏多さんは特別な才能を持っていて)
蛍(同じになろうとして、なれるような人じゃない)
蛍(だったら……)
蛍苦しみを、分かち合う……!
蛍(わたしだって、わたしなんかが 奏多さんになれるなんて思わない)
蛍(でも、まほろさんと二人でなら……!)
蛍――♪
ガレージ前
凪……まほろ、クマできてる
朋花寝不足はお肌の大敵ですよ?
まほろやー、お家練習が捗っちゃって
凪……あれ、ガレージの鍵開いてる
まほろご、ごめん。昨日閉め忘れちゃったかも……!
なつめ? なんか音がする。 蛍が先に来てるっぽいわね
なつめ、朋花、凪、まほろ!?
蛍――♪
なつめ……すご
凪…………
凪(世の中には、二種類の人間がいる)
凪(凡人と、天才)
凪(……汐見さんは、後者だ)
凪(凡人はどうあがいたって、天才に敵うことはない)
凪(だったら凡人は凡人らしく、過ごせばいい)
まほろ……っ
凪(……ねえ、まほろ。 そうすればそうやって傷付いたり、苦しんだりも――)
蛍——♪ ……ふぅ
朋花すばらしいです蛍さん!
蛍えっ!? 皆さん、いつの間に……!? いまの、聴いて……!
朋花はい、惚れ惚れする歌声でしたよ♡
なつめ……あんた、歌えるんなら早く言いなさいよ
蛍あ、いえ! これはただ……!
朋花あの、皆さん。これは提案なのですが……
朋花ボーカルを、蛍さんにも担当してもらうのはどうでしょう?
まほろ、凪!?
なつめ……蛍にも? ツインボーカルってこと?
朋花はい、そうなりますね♪ いかがです? みなさん
まほろ…………
凪(まほろには、辛い思いはしてほしくない)
凪(でも、私にできることなんてなくて)
凪(私にまほろは、救えない)
凪(だったら……!)
凪——いいんじゃない?
まほろえ……!?
凪今のを聴いたら、 汐見さんが歌わないのはもったいないでしょ
凪まほろががんばってるのは知ってるけど、 それとは別に、もっと演奏も良くなるんじゃない?
凪ね、なつめ先輩
なつめんー……まあ、それはそうね。 二人で歌い分けるんなら、安定感は増すと思う
なつめ試してみる価値はあるわね
朋花……お二人はどうでしょう? 悪い考えではないと思うのですが……
まほろあ……
まほろうん! いいと思う!
まほろ確かにあんな歌聴いちゃったら、 やらない方が損だよね!
まほろ私もすっごく助かるよ〜!
蛍……! ほ、本当ですか?
まほろ……うん、お願いね蛍ちゃん!
蛍はい! まほろさんがいいなら、ぜひ……!
なつめそうと決まれば、早速練習始めましょ。 曲の歌割り決めなきゃだし
朋花なつめさん、やる気ですね♪
なつめ違うわよ。今まで一人で歌ってたのを 二人用に直すんだから、早めに手をつけなきゃってだけ!
なつめ……まあ、どんなふうに変わるのかは、 聴いてみたい気もするけどね
朋花はい……私も楽しみです♪
なつめほら、全員さっさとセッティングして
凪はーい
蛍(がんばろう……!)
蛍(まほろさんの、millsageの幸せのために!)
まほろ…………
まほろ——こんなあっさり、決まっちゃうんだ