なにもなくても
花飾りのためのデコール
テキスト
翌日
駅前
朋花……蛍さん
朋花(最寄り駅までくればもしかして、と思いましたが)
朋花(さすがに、出てきてはもらえませんか)
朋花(昨夜送った連絡も反応なし)
朋花(これは……嫌われてしまいました、かねえ)
朋花はぁ……これで終わりですかね
朋花(また私は、死に損なった)
クラスメイトA朋花ちゃんすごーい!
クラスメイトBさすが朋花ちゃん!
教師和泉さんに任せれば安心ね!
ほうかえへへ、そんなことないです。 みんなのおかげですよ
――かつての私は、驕り高ぶっていました
ただそれなりに器用で、人付き合いが上手だっただけ
それだけで偶然、運よく人の輪の中心にいられた私は、 次第に疑問を抱き始めました
『私の何が評価されているのか?』と
飛び抜けた才能を持っているわけでも、 血の滲むような努力をしたわけでもない
そんな私が、なぜ『人の輪の中心』に?
……それから同級生に誘われ、バンド活動をするように なりましたが、疑問は日に日に大きくなっていきました
観客Aあのボーカルの子、上手〜!
観客B和泉さん! 私、ファンになっちゃいました!
世界中に、嘘をつかれているような
私は確かにここにいるのに、誰も私を見ていないような
そんな時、彼女に出会いました
奏多どーもはじめまして! えーっと、何だっけ? あ、そうだバンド名だバンド名!
奏多あー、ウィー・アー……アクアラピッズ!
奏多――♪
朋花……っ♡
本物だ、と。そう確信しました
彼女のそばにいれば、私はモブでいられる
みんなが作り上げた私を、その光で灼き殺せる……!
そのはず、だったのに
朋花(やっぱり私は一生…… 叶えられることのないまま終わる)
???……見つけた
朋花! ……あら
朋花なつめさんじゃないですか♪
なつめ……昨日あんなことがあったっていうのに。 よくもまあそんなフツーでいられるわね
朋花心外ですね。 蛍さんに謝りたくて、こうして待ち伏せているじゃないですか
なつめほんっと、何考えてるかわかんないわねあんたは…… まあいいわ
なつめ一個だけ、質問に答えなさい
朋花?
なつめあんた、millsageをやる気はあるの?
朋花……ええ、もちろん
なつめそ。じゃ、早速行くわよ
朋花? どこに?
なつめ迎えにいくのよ。蛍を
朋花……え、っと
なつめはん、あんたもそんな顔すんのね! 珍しいものが見れたわ
なつめ確かにあんたはメチャクチャなことをしでかしてくれたわ。 メンバーからは嫌われたってしょうがないレベルのね
なつめでもね、あたしはそんなのどうだっていい。 あたしが守んなきゃいけないのは、奏多と作った音楽だけ
なつめそれが消えてなくならない限りは、 どうぞ喧嘩でも騙し合いでもやっててちょうだいって感じ
朋花(承認欲求だけで生きている人だと思っていましたが……)
朋花(どうやら、案外肝が据わっているようですね)
朋花……? さっき蛍さんを、とおっしゃいましたが……
朋花まほろさんと凪さんのことは、 迎えに行かなくていいんですか?
なつめえ? ああ
なつめそっちならもうとっくに、迎えに行かせたわよ
凪…………
まほろ……凪ちゃん
凪! まほろ……!
まほろ……もしかして、ずっと待ってたの?
凪……うん。 家押しかけるのは、なんか違うかなって
まほろメッセージ、ずっと無視したのに?
凪……でも、いつかは読むでしょ
まほろ……何それ
凪……まほろ、ごめん
凪私……まほろを、傷つけた
凪……最低だよね、私
まほろ……ほんとだよ
凪……っ
まほろでも……私も最低
凪え……
まほろ朋花ちゃんのことはね、そんなに怒ってないんだ
まほろそりゃまあ、びっくりはしたけどさ…… 私が頼りないって思われてたのは、それはそうだよねって感じ
凪……そんなこと……っ
凪……
まほろボーカルも、ベースも、歌詞も…… 私だってやれる。やれるはずだ、って
まほろやらなきゃいけないことなんだって勝手に思い込んで、 凪ちゃんの言うこと無視して、無茶して、空回りして
まほろその結果、ライブで勝手に自滅……
まほろなんかもう、ダサすぎるよね
凪……や、まほろはがんばってたでしょ
まほろ……そうじゃない
凪みんなを繋ぎとめようとしてたし、 ボーカルも、歌詞だって諦めずに――
まほろだから! そうじゃないんだって!
凪……っ!?
まほろわかってるよ……私には才能とかカリスマとか、 そういうのはないって! でも……!
凪……まほろ――
まほろあーーーーーーっ!!! くやしーーーーーー!!!
凪!?
まほろ蛍ちゃんにボロ負けした! 向こうは中学生で、私高校生なのに!!
まほろみーーーんな私より蛍ちゃんを選んでた!!
まほろ負けたのも悔しいし、 認めてもらえてなかったのも悔しいけど!
まほろ昨日……蛍ちゃんの歌を聴いて、もういいんだって! なんか楽になっちゃった私がいて!
まほろ負けを認めちゃったのが、何より悔しい!!
凪……まほろ
まほろあーもう! 何で私には才能ないの!
まほろ憧れたっていいじゃん! 夢見たっていいじゃん! 私だって、主人公なんだって思いたいよ!!
まほろキラキラして、みんなを惹きつけて離さない…… そういうものに……! 私だって……!
まほろ私だって…………奏多みたいに……
凪……奏多は、特別だよ。無敵のヒーローだったもん
まほろ…………
まほろじゃあ、なんで……?
まほろ無敵だったのに、誰よりも主人公だったのに。 なんで死ななきゃいけなかったの……
まほろねえなんで!? なんで奏多は死ななきゃいけなかったの!?
凪…………わかんない……
凪わかんないよ……! そんなこと
まほろなんで私たちを置いてったの……!! なんでなの! ねえ!!
凪わかんないってば!!
まほろ……っ
凪私だって、ぜんぶ夢だったらいいのにって…… 何度も思った……!
凪『ぜんぶ嘘だよ』って、 その辺からひょっこり奏多が出てきてくれたらって……
凪何度も、何度も……!
まほろ何で……何でなの。 もっともっと、続きがあったはずなのに
まほろまだ高2と高3の文化祭が残ってるし、 修学旅行だって!
まほろ進路決めて受験して! みんなでおんなじ大学行ってバンドして!
まほろそんな未来が、あったはずなのに……っ!
凪……そうだね
凪本当に、そう
まほろなんなのもう……! 全部ぜんぶ、悔しくて、ムカついて……!
まほろ会いたいよ、奏多……っ
まほろバカだなって……笑ってよ……っ!
まほろううぅ……うっ
まほろうわああああああ……っ!
まほろぐすっ……ひっく……
まほろ凪ちゃん、ティッシュ
凪……もうない
まほろ……なんだよ、もう
まほろぐすっ……あ〜〜。 こんな泣いたの久しぶり
凪……確かに。大騒ぎしてるまほろ、久しぶりかも
まほろえ、大騒ぎってひどくない……?
凪いやだってさ。子どもの頃は、奏多とまほろで よく言い合いして、2人して泣いたりしてたじゃん
凪けどバンド始めてからはさ、なんか揉めても それなりに大人っていうか
まほろそりゃ……いつまでも子どもじゃないんだし
凪うん……だから
凪本音って、言えなくなるんだなぁって
凪なつめ先輩も、朋花も。 ずっと一緒にいたけど、本音で話したことってないのかもね
まほろ……そうかも
凪……まほろさ。奏多が亡くなってから、 今まで泣いてなかったよね
凪お葬式の時も
まほろ……!
凪抱えてるものがあるんなら、教えて欲しい
凪もうまほろ一人に、背負わせたくない
まほろ…………
まほろ私ね。奏多の夢を、邪魔しちゃったんだ
まほろ彗星ライジング。10代限定の、バンドの甲子園
まほろそれに出ようって、後夜祭の時に言われて
まほろでも私……そういう未来のこととか、考えたことなくってさ
まほろ今が楽しすぎて……変わっちゃうのが怖くて。 今じゃなくて、もっと先にしようよって、言っちゃったんだ
まほろ時間がないこと、誰よりも知ってる奏多に向かって
凪……
まほろ私があんなこと言わなかったら、 奏多が死んじゃう前に、出れてたりしたのかなって
まほろそうじゃなくても、私が出ようって あの時ちゃんと返事できてたら
まほろそしたら奏多の気持ちも、少しは……
まほろそう思ったら……私がそれを、叶えなきゃって
凪……だから、あんなに無茶してたの?
まほろうん……でも、やっぱり私に奏多は 無理だったみたい
まほろ昨日のライブで、嫌ってくらい思い知ったよ
凪…………
まほろ酷いやつだよね、私。 自分の罪悪感のために、みんなを巻き込んでさ
凪……どうだろ
凪奏多がどう思ってたかは……奏多にしかわかんないし
まほろ……だよね
まほろあーあ……私、これからどうしよ
まほろ才能ないって突きつけられて、 罪滅ぼしも、うまくできなくって
まほろ…………なにができるんだろう
凪……
凪……別にさ。バンド、やめたっていいんじゃない?
まほろ……え?
凪前にも言ったけど。 辛い思いをしてるまほろは、見たくないよ。 ……そういう道、選んでもいいと思う
まほろ…………そっか
まほろ……そうだよね……
凪うん……一度はそうしようって話になったんだし。 ……奏多への、気持ちもさ
凪……大人たちに言われたじゃん。お葬式で。 『時間が解決してくれる』って
凪……『悲しみも、時間が癒してくれる』って……
まほろ、凪…………
まほろ……やだ
まほろあ〜もう、何度も何度もこの気持ちになっちゃうな…… でも、嫌なんだもん
まほろ……やっぱり終わらせたくないよ、 奏多への想いも……私の物語も
まほろ奏多の代わりもできない、蛍ちゃんみたいな才能もない。 主人公になんか選ばれっこない
まほろなんにもない。空っぽ人間
まほろわかったよ。痛いほどわかった。 けどさ、ここで降りたら終わりじゃん
まほろ痛くても、降りたらダメなの
まほろ自分に何もないのを、終わらせる理由にしたくない……!
凪……あは。ほんと頑固
凪じゃあ、それでいいよ
まほろ……え
凪それでいい、って言ったの。 向き合って……生きてくしかないんだよ
まほろ……凪ちゃん
凪いや、わかんないけどね?
凪だってバンドも今こんな感じだしさ もう一度やれるかなんて全然わかんないじゃん
まほろ……だね
凪……さむ
まほろ海風、冷たすぎ
凪ね。沁みる
まほろ…………行こっか