凡人と天才

(私にまほろは、救えない)

Details 10:11
Chapter
花飾りのためのデコール
Duration
10:11
Release
Dec 31, 2025
Characters
汐見 蛍 , 伊沢 なつめ , 琴平 凪 , 浜崎 まほろ , and 和泉 朋花

Text 125

Background
Background

ライブ1週間前

ガレージ

まほろ
――♪
凪
……まほろ。そろそろ時間
まほろ
――♪
凪
まほろ……まほろってば
まほろ
ひゃっ!? 何?
どしたの凪ちゃん!?
凪
……時間。もう遅いよ
まほろ
あ……ほんとだ。
でも、あともうちょっとだけ……!
凪
ダメ。ここんところ毎日居残り練習してるじゃん。
喉壊したらどうするつもり?
凪
ほら、カバン持つから。出るよ
まほろ
ええ〜……せっかく歌詞もなんとかなって、
歌に集中できるようになったのに〜
凪
だからこそ、体は大事にして
凪
……あれ? このにこぱんキーホルダー……
汐見さんが見つけてくれたやつじゃん
まほろ
あ、うん。奏多の家に届けに行ったんだけど、
持っててもらって構わないって
まほろ
せっかくだし、お守りにしてるんだ。
奏多が見守ってくれてる気がして
凪
……そうなんだ
まほろ
だから〜……お願い!
もうちょっと! もうちょっとだけ!
凪
……はぁ
凪
ねえ、まほろ。
なんでそこまでしてがんばるの?
凪
汐見さんが入ってきて、
負担も減らそうと思えば減らせたはずだよ?
凪
解散の話だってなくなった。
私たち、それでよかったはずじゃん
凪
なんでそんなに、自分を追い込むようなことするの?
まほろ
…………
まほろ
やだな〜、追い込むなんて大げさだよ!
ただ私が、カッコ悪いところ見せたくないだけ!
凪
…………
凪
(そうやって、笑って誤魔化す)
凪
(昔からの悪い癖)
凪
(そのバレバレな演技で、隠し通せると思ってる)
まほろ
凪ちゃんの言う通り、バンドは解散せずに済んだ。
でも、そこで満足したらダメだな〜って
凪
(なーんで……そうなるかな)
Background
Background
凪
(奏多がいた頃は、そんな感じじゃなかったじゃん)
Background
Background
凪
(バンドはあくまで、青春の思い出づくりで)
Background
Background
凪
(だからみんなも、いい感じで笑えてたのに)
Background
Background
凪
(私は、それがよかったのに)
凪
……プロ目指してはないんでしょ?
まほろ
う、うん
凪
じゃあ――
凪
(なんでそんなに、前に進もうとしてるの?
上を目指そうとしてるの?)
凪
(……変わろうとしてるの?)
凪
(このまま、ここにいるんじゃダメなの?
ただ好きで音楽やるだけのバンドで……)
凪
(なにかになろうとなんて、しないで——)
凪
(置いてか、ないでよ)
凪
……っ
まほろ
……? 凪ちゃん?
凪
(なんて、積もった全部を言える勇気も)
凪
(臆病な私を、見せる勇気もない)
凪
ごめん、なんでもない
凪
でも、無理だけはしないで。約束
まほろ
……うん、わかった! 約束ね!
凪
(私もまた、笑って誤魔化すしかできない)
凪
……あは
凪
(ほんと、嫌になる)
Background
Background

数日後

ガレージ

蛍
こんにちは……って、あれ
蛍
(まだ誰も来てないみたい。
みなさんまだ学校かな)
蛍
(どうしよう……先に練習してようかな)
蛍
(初ライブも、近づいてきてるし)
蛍
…………
Background
Background
朋花
蛍さんも、ボーカルをやればいいんです
Background
Background
蛍
(millsageの音楽は、奏多さんのボーカルと
ピアノで成り立ってた)
蛍
(だから……まほろさんは奏多さんの
代わりになろうとがんばってる)
蛍
(でも、奏多さんは特別な才能を持っていて)
蛍
(同じになろうとして、なれるような人じゃない)
蛍
(だったら……)
蛍
苦しみを、分かち合う……!
蛍
(わたしだって、わたしなんかが
奏多さんになれるなんて思わない)
蛍
(でも、まほろさんと二人でなら……!)
蛍
――♪
Background
Background

ガレージ前

凪
……まほろ、クマできてる
朋花
寝不足はお肌の大敵ですよ?
まほろ
やー、お家練習が捗っちゃって
凪
……あれ、ガレージの鍵開いてる
まほろ
ご、ごめん。昨日閉め忘れちゃったかも……!
なつめ
? なんか音がする。
蛍が先に来てるっぽいわね
なつめ, 朋花, 凪, and まほろ
!?
Background
Background
蛍
――♪
なつめ
……すご
凪
…………
凪
(世の中には、二種類の人間がいる)
凪
(凡人と、天才)
凪
(……汐見さんは、後者だ)
凪
(凡人はどうあがいたって、天才に敵うことはない)
凪
(だったら凡人は凡人らしく、過ごせばいい)
まほろ
……っ
凪
(……ねえ、まほろ。
そうすればそうやって傷付いたり、苦しんだりも――)
蛍
——♪ ……ふぅ
朋花
すばらしいです蛍さん!
蛍
えっ!? 皆さん、いつの間に……!?
いまの、聴いて……!
朋花
はい、惚れ惚れする歌声でしたよ♡
なつめ
……あんた、歌えるんなら早く言いなさいよ
蛍
あ、いえ! これはただ……!
朋花
あの、皆さん。これは提案なのですが……
朋花
ボーカルを、蛍さんにも担当してもらうのはどうでしょう?
まほろ and 凪
!?
なつめ
……蛍にも?
ツインボーカルってこと?
朋花
はい、そうなりますね♪ いかがです? みなさん
まほろ
…………
凪
(まほろには、辛い思いはしてほしくない)
凪
(でも、私にできることなんてなくて)
凪
(私にまほろは、救えない)
凪
(だったら……!)
凪
——いいんじゃない?
まほろ
え……!?
凪
今のを聴いたら、
汐見さんが歌わないのはもったいないでしょ
凪
まほろががんばってるのは知ってるけど、
それとは別に、もっと演奏も良くなるんじゃない?
凪
ね、なつめ先輩
なつめ
んー……まあ、それはそうね。
二人で歌い分けるんなら、安定感は増すと思う
なつめ
試してみる価値はあるわね
朋花
……お二人はどうでしょう?
悪い考えではないと思うのですが……
まほろ
あ……
まほろ
うん! いいと思う!
まほろ
確かにあんな歌聴いちゃったら、
やらない方が損だよね!
まほろ
私もすっごく助かるよ〜!
蛍
……! ほ、本当ですか?
まほろ
……うん、お願いね蛍ちゃん!
蛍
はい! まほろさんがいいなら、ぜひ……!
なつめ
そうと決まれば、早速練習始めましょ。
曲の歌割り決めなきゃだし
朋花
なつめさん、やる気ですね♪
なつめ
違うわよ。今まで一人で歌ってたのを
二人用に直すんだから、早めに手をつけなきゃってだけ!
なつめ
……まあ、どんなふうに変わるのかは、
聴いてみたい気もするけどね
朋花
はい……私も楽しみです♪
なつめ
ほら、全員さっさとセッティングして
凪
はーい
蛍
(がんばろう……!)
蛍
(まほろさんの、millsageの幸せのために!)
まほろ
…………
まほろ
——こんなあっさり、決まっちゃうんだ