Nihil est firmum.

(この小さな世界はきっといつか終わる。 朝、夢から覚めるように——突然、否応なく)

詳情 17:28
章
泡沫の箱庭
時長
17:28
發布
2025年12月31日
角色
ドロリス / 三角 初華 、 モーティス / 若葉 睦 、 ティモリス / 八幡 海鈴 、 アモーリス / 祐天寺 にゃむ 和 オブリビオニス / 豊川 祥子

文字 183

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空港

執事
お嬢様、到着いたしました
祥子
このままスイス、というわけですのね。
着の身着のまま行かせるおつもり?
執事
旦那様のお言い付けです。ご用命があればのちほど……
祥子
……
祥子
(あっけない幕切れですわ)
祥子
(彼女たちの人生を逃げずに背負うと覚悟した矢先に——)
祥子
(これが神様の決めた運命だとでも言うんですの。
わたくしはいつもそう)
祥子
(抗っても、抗っても。すべて濁流に流される)
祥子
……
執事
どうなさいました? お嬢様
祥子
……乗りませんわ
祥子
——行かなければっ!
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執事
祥子お嬢様! 危険です、お待ちください!
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祥子
はぁっ……はぁ……!
祥子
あっ!
祥子
(痛がってる暇なんて、ありませんわ!)
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祥子
はぁ……はぁ……っ!
祥子
(——初華!)
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港

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祥子
声をかけていただいて助かりましたわ。
手持ちが雀の涙でして……行けるところまでで
運転手
豊川のお嬢さんをほっぽるなんてしないよ。
どこいくの?
祥子
ありがとうございます。三角さんと言う方のお宅は……?
運転手
ああ……本土に引っ越したよ。
おねえちゃんなら……あ
祥子
お姉さん? その方はどちらに?
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豊川家 別荘

祥子
(ここに初華が……?)
初音
さきちゃん……?
祥子
初華……よかった!
初音
っ!
祥子
待って初華! ……初音さんっ!
初音
……!
初音
……さきちゃん、もう帰ったほうがいいよ。
私とは会わないほうが……
祥子
帰りません
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祥子
どうしてお返事くださらなかったの?
おじいさまの言い付け?
初音
ううん……
祥子
初音さんは、おじいさまとどういう関係ですの?
初音
……私は……豊川定治さんの娘
祥子
おじいさまの娘……?
初音
うん。お母さんがここの管理人をしてた。
私が生まれて辞めたから、さきちゃんは会ったことないよね
祥子
……隠し子、ということ
初音
戸籍上は他人だから、豊川の相続順位は侵されないよ
祥子
そんな話、してませんわ
祥子
あなたは初音さん、ですわよね?
初華というのはいわゆる偽名?
初音
私の妹の名前
祥子
……え
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初音
私より活発で、虫取りが好きで
アイドルになりたかったのが……本物の初華
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初音
さきちゃんに会いたくて、初華のフリをしたんだ
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初音
ずっと嘘ついてて……ごめん。
……ごめんなさいっ!
祥子
……これからどうなさるの?
初音
住み込みで管理人をさせてもらえることになったから
学校も転校すると思う
祥子
それでいいんですの?
初音
……え
祥子
sumimiは? Ave Mujicaは?
初音
……いつか、終わりが来るってわかってた
初音
アイドルも、バンドも、見逃しててもらえただけ
初音
明日終わるかも、今日かも、って毎日怖かった。
いっそ何もかも捨てて楽になりたいって
思ったこともあったけど……
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初音
……だめだった
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祥子
わたくしが、声をかけてしまったから
初音
違う! 嬉しかった!
初音
……誰かのかわりでも
祥子
……!
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祥子
……
初音
……うれしかったんだ。さきちゃんに必要とされて。
私がぜんぶ忘れさせてあげたかった……
初音
できるわけないのに。
嘘だらけの私が敵うはずないのに
祥子
……誰しも秘密のひとつやふたつ持ってますわ。
それをすべて共有しなくても裏切ってるなんて思わない
祥子
わたくしだって——
初音
知ってる
初音
さきちゃんがお父さんとどういう生活をしていたか。
私が元凶だから——
祥子
……え
初音
……これでわかったでしょ?
ぜんぶ、ぜんぶ私のせいなの
祥子
……
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初音
最後の便だよ
祥子
……ねえ、来てくださらない?
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初音
はぁ……はぁ……さきちゃん……!
さきちゃん! 港は? 最終便出ちゃうよ?
祥子
……着きましたわ。
明るい時間だとなんだか違う場所みたいですわね
初音
ここって……
あ、さきちゃんそんなとこ座ったら汚いよ……?
祥子
すっ転んだあとですもの
初音
虫いるよ
祥子
虫、苦手ですの?
初音
……うん
祥子
虫取りのとき、大きな蜘蛛に驚いて叫んだのは?
初音
……私じゃない
祥子
浜辺できれいな貝殻を拾ったのは?
初音
ちがう
祥子
薔薇の木陰でいっしょにクッキーを食べたのは?
初音
……ううん
祥子
それじゃあ……
初音
初華と遊んだ思い出はほとんど初華のだよ
初音
ううん……ぜんぶ初華の。私じゃない
祥子
……
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初音
この島も悪くないんだ。星がきれいだから。
さきちゃんと出会えて、すこしでもいっしょにいられて
すごく……すごくしあわせだった
初音
しあわせなんて言える立場じゃないけど。
……この思い出があるから生きていけると思う
初音
だから……
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祥子
ご自分のことばかりですのね
初音
……
祥子
でも、わかったことがひとつありますわ
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祥子
ここでいっしょに星を見ましたわね。
あれは……あなた?
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初音
……!
祥子
やっぱり。星が好きなのは、初音ね
初音
! ……っ!!
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祥子
……ふぅ
初音
さきちゃん……?
祥子
初音、帰りますわよ
初音
え? どこに?
祥子
東京に決まってますわ!
初音
ええ〜?
祥子
近道使えばフェリーに間に合いますわ。
さぁ走りますわよ、初音!
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初音
ちょ、引っ張らないで。
さ、さきちゃ〜〜〜〜ん!
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フェリー船上

祥子
間に合ってよかったですわね。
ふふ、すっかり汗だくですわ
初音
さきちゃん……! 私、やっぱり行けないよ
祥子
無理やりつれてこられた、ってわたくしのせいに
すればいいですわ
初音
そんなの……だめだよ
祥子
……わたくしたちは運命共同体
初音
!
祥子
あなたの人生、くださったのではなくて?
初音
さきちゃんを裏切ってたんだよ!? 私が………
さきちゃんを……
祥子
なかったことにしません?
初音
えっ……な、何を?
祥子
あなたとわたくしを取り巻く不幸と後悔。
しがらみのすべて
初音
それって……
祥子
すべてを忘れて、なかったことにするんですわ。
そうすればなににも囚われない
初音
そんなこと……できないよ。許されない
祥子
……
初音
さきちゃん……? そんなに乗り出したら危な……
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祥子
いいかげんっ! うんざりですわーーーっ!!
初音
……!
祥子
誰が許さないのっ!? 誰が決めたのっ!
どうして言うことをきかなくちゃいけないのっ!
祥子
初音も初音ですわ! こんの、このっ……!
ばか〜〜〜っ!
初音
さきちゃん……
祥子
なんですの。わたくし怒ってるんですの。
わたくしの覚悟を甘くみないでちょうだい
初音
……うん
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初音
……
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初音
……
祥子
ぅ……ん
初音
……
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祥子
ありましたわ……!
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祥子
……これだけは
初音
……
定治
コソ泥のような真似を
祥子
荷物を取りにきただけですわ
定治
初音。祥子を連れてきた時点でお前の役割は
終わったはずだが?
初音
……あ、あのっ……
定治
……?
初音
………さきちゃんのそばにいさせてください!
あなたに、豊川の家に迷惑は——
定治
あの男と同じ轍を踏むつもりか?
いますぐ出ていけ。金輪際豊川の敷居を跨いではならん
祥子
豊川、豊川ってそんなに偉いんですか?
わたくしたちが何をしたって言うんですの?
祥子
到底受け入れられません!
定治
お前は豊川の家の恐ろしさを……
祥子
怖気付いてるのはおじいさまでしょう!
定治
っ!
祥子
わたくしも出ていきます。
もうおじいさまの言いなりにはなりません
祥子
ふたりで暮らします!
初音
さきちゃん……!
祥子
お父様のこと、よろしくお願いします!
定治
……
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祥子
ふふっ! おじいさまの顔ったら!
鳩に豆鉄砲とは、まさにあれですわっ! ふふっ
祥子
…………ありがとう
初音
……
初音
死んじゃうかと思った
祥子
わたくしも……
あら、初音。肩のところに虫が……
初音
うわぁあっ! 虫ぃ!?
祥子
動かないで、取ってさしあげますから。
ほら、じっとして
初音
……うぅっ! は、はやく……
祥子
……ほら、取れましたわ。
こんなに小さいてんとう虫が怖いんですの?
初音
こ、怖いんだって〜! 
さきちゃん、こっち向けないで〜
祥子
ふふっ、初音ったら
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初音
も〜〜っ、笑わないでよ〜!
……ふふっ
祥子
ふふ
祥子和初音
あははっ
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初音
これからどうする?
祥子
…………この世界はどうにもならないことだらけで
祥子
たしかなものなんて、
揺るぎのないものなんて、何一つありませんわ
祥子
……こわい?
初音
……ううん、さきちゃんと一緒なら
海鈴
@祥子  三角さん見つかりましたか?

Ave Mujica

海鈴
練習11時からです
海鈴
今日こそ来てください😭
祥子
忘れてましたわ。ええ、これから……
初音
さすがに顔出さないと。
コーヒー淹れるからもうちょっと寝てていいよ
初音
さきちゃん……だいすき
祥子
…………
祥子
(運命に……世界に背を向けても
なにかが変わるわけではありませんわ)
祥子
(この小さな世界はきっといつか終わる。
朝、夢から覚めるように——突然、否応なく)
祥子
(けれど、できるだけ。もう少しだけ微睡みに
浸っていたい)
祥子
この匂い……嫌いですわ